【準新作】矢口弘美 19歳 第2章 旦那が仕事から帰るまでの10時間 ずーっと絶頂・焦らし・イキ潮・激ピストン4PSEX 十人十色の純白15発
【準新作】矢口弘美 19歳 第2章 旦那が仕事から帰るまでの10時間 ずーっと絶頂・焦らし・イキ潮・激ピストン4PSEX 十人十色の純白15発


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57 賢治:04/05/20 08:24 ID:uni6Cu+T
平成12年10月21日、信じられない光景を目の当たりにした。
「もう少し横、そうそう・・そこそこ」
台所に立っていると後ろでそんな声が聞こえた。
振り向くとまだ安定期にも満たない妊婦の通代が、うつ伏せにになって 子供に腰を踏ませている。
「うわぁ、何やってんだ!」
通代は涼しい顔で面倒そうに立ち上がりながら
「大丈夫だよ、今までだって結構無茶しても何ともなかったんだからさ」
そうは言うがそれにしても無頓着が過ぎる。
「一応、明日病院で診察してもらうんだぞこの、バッカヤロー」
「はいはい・・」
通代はまた面倒そうに髪をかき混ぜた。

58
 賢治:04/05/20 09:14 ID:uni6Cu+T
次の日に通代から仕事場に電話があったのは午前10時過ぎの事だった。
「ごめん、ダメだったみたい」
心の準備をさせるでもなく、さらりと言いのけると
「すぐに掻き出さないといけないみたなんだけどさ・・やって貰ってもいい?」
あまりに現実離れした報告に言葉も詰まった。
「ちょ、ちょっと待て、今日やらないかんのか・・」
「いや、ダメだダメだ・・今日はやめろもう一日だけ待って貰え、いいな!」
「明日になったら、何かが起きるかもしれない・・その可能性だってあるんだ」
根拠のない希望にしがみつき、必死に不安をかき消した。

59
 賢治:04/05/20 09:40 ID:uni6Cu+T
その晩は子供とじゃれる気持ちにもなれず子供が寝た事を電話で確認してから帰路についたが・・その足取りは重かった。
途中、夜半の蓮華寺池公園に立ち寄りベンチに座るともう、堪えきれず涙があふれた。我が人生さえも責めた。
いい加減に生きて来た事への報いなのか・・・。
これがもし、失った子が八人の中からであったらその悲しみは計り知れないぞ・・そのような警鐘にも思えた。

「ダメだ、今帰ったら通代をどんなにか責めてしまうだろう」
そう気がつくと池の周囲をゆっくりゆっくりと歩いた。11月が近いとはいえ相変わらず非常識な静岡の気候はこの時間になっても程良い温度で幸福そうな一組が水際で眠りについていたガチョウをひやかしていた。



60 賢治:04/05/20 10:07 ID:uni6Cu+T
生命とは不思議なものだ・・。
確かに八人のどの子供を妊娠している時にも通代の無茶はあった。点灯を始めた歩行者用信号に慌てて走り出し、大きなお腹を上下に揺らしたり・・日常の不満からボトルを空けた事もあった。それでも望まれた子供は強く、無事に産まれて来てくれたのだ。今回は、親のあまりの仕打ちに自分は望まれてないと小さな生命が判断したのだろうか。

いずれ通代にとってはただの「苦い記憶」だったのか、またそれにも及ばない出来事だったのか・・。
結局決定的な処置を施したあの日を通代が思い出す事はないのだろう。

61
 賢治:04/05/20 13:08 ID:uni6Cu+T
月日は刻々と通代に、その決断の時を迫っていた。
「賢治が復縁してくれなんだら堕ろす」
という、脅迫にも近い通代の言葉は・・私の胸中を量っての事だ。
「知った事じゃない!俺には関係の無い話だ」
気持ちの動きを悟られぬよう、間髪を入れずそう答えた。

何という会話であろうか。
その生命は普通に時間を経過さえすれば、この世に一人の人間として存在する事が出来るのだ。
しかも通代とは、いや私の子供達とも同じ血も分けているのだ。

63
 賢治:04/05/20 13:49 ID:uni6Cu+T
何が引き留めているのかはともかく決断しかねている通代の肩を強く押す人物が話し合いに加わった。
「あんたのお腹にいるのは、人間の子じゃあないんだよ!」
「そんなもん、産んでどないするのぉ!」
通代の母親の剣幕はひどいものだった・・。
これからの娘の人生を思えば、親としてある種の正論なのかもしれない。だがそこには、同じ「親」として通代に伝えるべきものは何もない。
人間としてと言うのなら尚更の事だ。しかし・・・
自分一人で決めずに、実母の後押しでという気楽さも加わってか・・
通代は堕胎を決断したのだ。

64
 賢治:04/05/20 19:45 ID:VQ0LnRSP
「今、堕ろしに来てるんだけどさ・・」
通代からの電話に胸がエグられる思いがした・・
一言も何も言わずに受話器を置いた、何も聞きたくはなかった。その、物言いに不愉快を極めた。しかし通代である・・電話はまた鳴った。
「聞いて、あのね・・」
「仕事中だ!切るぞ・・」
「あのさ心音が一つじゃあないんだって」
「え・・・・」
「双子なんだって、どうしよう」

65
 賢治:04/05/20 21:18 ID:zW8rQGEO
「おっ前なー!」
耐えて耐えて、耐えに耐えた感情が一気に噴出した。
近くにあった本棚を蹴り上げ声を荒げた・・
「お前はなんでそうやって俺に連絡するんだよ!自分一人では何にも背負いたくないのか!」
仕事場に居合わせた人間の目などもう、どうでもよかった。
「双子だなんて聞いたら俺がどう思うかなんて・・お前にもわかるだろうよー!」
「知らん知らん!俺は知らんぞー!」

私の人生には、常にそれを傍観するもう一人の私がいた。
それが故に我を忘れるという事は、この時まで経験のない事だった。

66
 賢治:04/05/21 08:35 ID:44ozYj6D
頻繁にあった通代からの連絡が途絶え何日かが過ぎた。
我が家は相変わらず慌ただしい毎日であった。
私の仕事場は旧東海道沿いにあり、仕掛け人シリーズの梅庵の生地とされていた。商店街は私のような余所者にも感じられる人情があり・・・
四季折々の和菓子をつくっている時が幸せだ、と言って目を細める和菓子職人がいた。頑固一徹で七十代に届いてもガリガリ働くが、他人をよく褒める茶卸業者がいた。嫁姑の話題を得意にし、看板娘の座に君臨し半世紀の御所がいた。私はこの商店街での買い物が好きだった。昼休みにはここで買い物をし午後の仕事の合間に夕食の下準備などをした。

67
 賢治:04/05/21 08:54 ID:44ozYj6D
昼休みになり、何時ものように買い物に出ようとした時・・
「おぅ、久し振りやな」
と、声がする方を向くとそこには知り合いではあるがあまり顔を会わせたくない人物が立っていた。
「ゆっくり話せるとこ、いこかぁ!タクシー呼びやぁ!」
瞬時に私はこの後の自分の運命を悟った。この人物がどのような用件でここに現れたのか、それは考える余地もなかったのだから・・・。

69
 賢治:04/05/21 09:45 ID:44ozYj6D
「すいません、じゃあ貼り紙だけ貼らせて下さい」
すぐに戻らせてはくれまい、と考えつつ紙に向かった。
客様各位
誠に申し訳ありませんが本日午後の営業は四時からと・・
後ろからゴツンと小突かれた・・
「四時に帰れると思っとるんかい!休みにせぇ!」
考えが甘かった・・と思うと同時に抱いた不安が間違いなかった事を確信した。
「覚悟を決めるしかない」

70 賢治:04/05/21 09:58 ID:44ozYj6D
タクシーで向かう先は通代のマンションだった。
「なんやはっきりせん街やなぁ」
この人物も、いつも面倒そうな物言いをするのだ。
更に窓から街並みを見回しながら・・
「子供は元気かぁ?」
「ええ、何とかっすが・・」
「そかそかぁ、可愛いやろ?誰でもな身内は可愛いもんなんや」
数々の武勇伝を持つこの人物は通代の、まさにその身内である。

71 賢治:04/05/21 10:37 ID:44ozYj6D
ドアを空けマンションに入ると通代は玄関まで走って来た。
「賢治お願いだからまた、一緒にくらしてぇ!」
だが、お願いなんて言い方もこの時の私には
「それがあんたの為だよ」
という脅しの意味合いにも聞こえた。どうしてこの人物がこの街に現れたのか。通代の言葉ひとつで、どうにでも説明出来ただろうにと覚悟を決めた筈の私の気持ちがまた揺れた。
「座れ・・」
玄関先の台所の床に黙って正座をした。
「どういう事や・・」
と、間近から私を直視するこの人物にもはや・・
説明をする機会は与えられても、それを受け入れられる事はない。

72
 賢治:04/05/21 11:10 ID:44ozYj6D
「すいません・・」
何に対して頭を下げなければならないのか等、考える必要はなかった。ただただ、この人物の感情を逆撫でしたくなかった。
不思議なほど恐怖感はなかったが・・・
こうむる被害はやはり最小に押さえたかった。
「賢治・・通代が可愛そうや思わないんか」
私の反応を伺ったが、かわすしか手はなかった。
「本当に、すいません・・」
ひたすら、そう言い続けるしか浮かばなかった。
「すいませんやないんやー!」
と、蹴跳ばされた椅子が遠くに飛んだが
「あの椅子はいいな・・あれだけこの人物から離れればもう構われないだろうな」
そんな事を思うほど客観的な自分がいた。

76
 賢治:04/05/21 15:50 ID:72IzXu8u
「賢治よ、お前一度通代にヨリ戻すって言ったんだろぉ?」
そうなのだ一度してしまった約束を果たさぬのは例え、それが如何なる理由によろうとも、この人物の前では、それは明らかにこちら側の落ち度なのだ。
「すいません、申し訳ないす」
その台詞を繰り返しつつも、頭の中では何とか挑発せずに説明を出来ないものか模索していた。
「大体お前との生活に不満で、通代は家を出たんとちゃうんかぁ!」
突然、私の背後に回るとまな板の上にあった包丁を持った。
「おぉ、こらぁー!」
と威嚇しながら私の額を刃先で二、三度突っついた。傷は大した事もあるまいが血は大袈裟に流れた。
「やめてぇな!賢治、な、もう一度一緒に暮らそ!」
本気で止めるつもりもない、通代の芝居掛かった声が響いた。




77
 賢治:04/05/21 16:25 ID:72IzXu8u
「女を下げるなーっ!」
と通代を制止しながら・・・
「お前からヨリ戻せ言うたらな、お前の価値が落ちるんやでぇ」
そう通代をなだめた。
「なあ賢治、通代がまたお前と暮らしたい、言うとるんや・・それでエエやろぉ何が不満なんや」
「ホントにすいません、勘弁して下さい」
額の血は止まり、乾いて顔面の皮膚を引っ張った。
依然、その人物の右手には包丁が握られていた。

78
 賢治:04/05/21 17:31 ID:72IzXu8u
夕方になり保育園の迎え、そして夕飯の時間が近づいたが私はまだ通代のマンションに居た。お迎えと夕飯は、通代の母親が面倒をみてくれる手筈になっているのらしい。
こんな女であっても、通代が子供達にとっては母親であるのと同様に通代の母親もまた子供達にとっては、大事な存在なのだ。

感情の起伏が激しいこの母娘に私は随分罵られ八つ当たりされこの十年、過ごして来た。

79
 賢治:04/05/21 20:25 ID:72IzXu8u
平成三年三月・・
半年前に知り合ったばかりの通代との何かを急がなければならないように婚姻話が進められ決まった披露宴が行われた。
「女冥利につきる」
という通代の母親の発案で、新婦側の友人代表挨拶は通代が以前、好意を寄せ付き合った男という理解を超えたものであった。
それだけでも忘れ得ぬ出発となったであろうが
この日、この母娘に度肝を抜かれたのはその後だった。

お花のお師匠でもある通代の母がホテルで飾った花が使い回しだと怒りだしたのだ。
「出すもんは出しとんのや!なめたらあかんでぇ!」
絨毯に正座させた支配人の膝に、着物の裾をめくって足を置きすごむ通代の母親を、通代の親戚だけがニヤニヤ見守っていた。

80
 賢治:04/05/21 21:27 ID:72IzXu8u
「今日のお前んとこのおっ母、すごかったなぁ」
本来であれば、披露宴の翌日から仕事をすべき立場にあったこの頃であるが通代の母親に押しきられ温泉一泊だけの新婚旅行に来ていた。
「ああ、お母さんあの脚には太股んとこに薔薇を彫ってんねん、見せたがりやねん」
しかし・・
「今日はちょっと見えにくかったけど」
などと話すこの通代にもこの直後、更に驚かされる事になる。
夕飯も済み何度目かの風呂につかり、新婚初夜の晩をむかえた。
「ちょっとここに座って!」
もう布団も用意した後であり二人とも寝間着に着替えていた。
ふつつか者ですがと古風な挨拶でもあるのかなと思い布団の上に通代と向かい合って座った。

81
 賢治:04/05/22 11:18 ID:GqBGq/pz
「あんたね、この世で自分が一番強くて自分が一番偉いと思ってるでしょ」
言葉は聞き取れたが、言われている事の意味が解らずきょとんとしていると
「それはね、間違いだという事をこれから私が時間を掛けて少しずつ教えてあげるから」
通代はそう言うや否や拳を振り上げ躊躇わず私の顔面に振り下ろした。握った指の付け根の節で殴らずに肩たたきの如く、それでいてまるで釘でも打ち付けるように振り下ろしたのである。正座していた私はグラリ後ろによろめき、ギーンと頭が鳴ったが反射的に腕を支えにし、かろうじて倒れる事は防いだのだ。ドクドクと鼻から血が流れたが、何が何だか解らなかった。さっきまでは普通に会話をしていた二人で、ましてや数時間前に宴を終えたばかりの私達なのだ。

83 賢治:04/05/22 12:35 ID:GqBGq/pz
鳩が豆鉄砲喰らったような顔、という表現があるが
この時の私と一体どちらが素っ頓狂な顔だったのだろう。
更に通代は間髪入れず二度三度と、今度はストレ-トを私の顔面に向掛けた。どれだけの時間私の思考回路は止まっていたのだろう。
「この野郎!」
我に返るなり立ち上がって通代を睨み下ろした。
「ふん!」
通代は怯むどころか予測の範囲とばかりに睨み返した。思わず通代の胸ぐらを掴み持ち上げ、布団の上に叩きつけた。通代は、すくと立ち上がり今度は私を投げようとする。幼少より柔の道を志した私を無謀な試みであるが、やられた事でやり返そうとする通代の執念と、そのあまりに必死な形相が熱くなりかけた私を冷静にするのだった。

84
 賢治:04/05/22 15:07 ID:MiM9FSlJ
確かにこの頃の私は仕事に集中する余りに、助手として勤めはじめた通代にきつかったかもしれない
仕事上の妥協は我慢出来ず若さから周囲にもそれを強要した。見た目にはよく堪えていた通代が、まさかここでそれを晴らそうと考えていたとは思いもつかなかった。
「最初が肝心やしな」
と、後にこの晩の出来事を話す通代に
「俺もいきなり、こいつは侮れんと思ったよ」
と私も素直に認めたし、事実その後も常に振り回される結婚生活であった事は今更である。また、くどいようだがそれでも我が子等にとって通代は母でありそのまた母親は祖母である。子と母、祖母の関係を良好に保つ事は私自身の保身にもつながると信じ、気持ちを殺しそれに努める日々にもなった。

85
 賢治:04/05/23 13:16 ID:Q03+hbbn
通代が借りたマンションは以前、一度だけ勤めたアルバイト先の目と鼻の先にあった。不倫相手はそこの上司という、ありがちな成り行きである。最初、通代は不貞であった事を強く否定したが男はあっさりと認めた。途端に通代も弱気になった。
「じゃあ俺が迎えに行った時、なかなか出て来なかったのは中で、お前等がいちゃついてるのを待ってたのか!」
黙って横目でお互いを確認する、二人のそれが言葉以上に答えていた。己のあまりの間抜けさにあきれる話だが、第三者から見ればどう考えても通代はとんでもない女である、 ・・さてしかし、そんな話がこの人物の同情をひきだせるものだろうか・・。
そんな事を思いながら、通代のマンションでの押し問答はまだ続いていた。何事につけ面倒な性分の私もここは、譲る理由にはいかなかった・・・・・・・僅かに残した自尊心をも譲る理由には。

私が拘束されてからもう七、八時間は経っただろうか。

86 賢治:04/05/23 15:57 ID:oTqN+v42
長い午後はなかなか終わらなかった。
予め長くなると解っていれば、こんなには頑張れなかっただろうと思う程、私の中ではこつこつと時間を積み重ねた。曲がりなりにも十年近く続けてきた親戚関係、私の客観的な落ち度、子供達に対する影響を考えると・・
「この人物が俺に出来る仕打ちは限度がある筈だ・・」
その思いだけを頼りに首を振り続けた。
「勘弁して下さい、(復縁は)無理なんす」
「賢治、また一緒に暮らすって言ってくれたじゃない」
「お前は黙ってろ言うとんのや!」
そんなやりとりが結局十四時間余りも続いたのだ。

87
 賢治:04/05/23 16:22 ID:oTqN+v42
朝方三時をまわった頃それまで包丁を突きつけたり蹴飛ばしたり威嚇的ばかりだったその人物も・・
流石に体力を消耗して来たのか急に、なだめ口調になった。
「なあ賢治、通代も反省しとんのや・・それでエエんちゃうんか!・・なあ?」
ここで活路を、見い出さねばとそれに応じた。
「自分も何が何でも許せないとか、そう言うのとちゃうんすよ」
「じゃあ何や、言うてみぃ・・」
今が絶好のタイミングだと見計らって、私の中では伝家の宝刀ともいうべき次の一言を放った。
「通代が、あの男の子供を俺んとこに戻って産みたいと言って来た時に、確かに一度は了承はしました」
でも・・と次の日にこのマンションで、事の最中であった二人に遭遇した出来事を持ち出した。
建前にしろ義理を語るこの人物である、私はその反応を待った。




88
 賢治:04/05/23 16:48 ID:oTqN+v42
「それが自然の流れというもんちゃうかぁ?」
私の切り札は気が抜ける程、事も無げに一蹴された。
「好き合うた二人が別れるんや、そうなるわい・・賢治、それぐらいの度量は持てや」
不倫相手の子をお腹にでも、帰って来いと言った私には度量が無かったのか・・・あまりに簡単に望みを絶ちきられ、この人物の言う事の方が 正論であるかのような錯覚さえ起こしそうであった。
この瞬間、私の気力は完全にその緊張の糸を切った。

「解りました、解りましたから帰らせて下さい」
意図とするしないではない思考の中から、私の口はそう、言葉にしてしまったのだ。

91
 賢治:04/05/24 08:18 ID:hs4FMmlH
私の、解ったという言葉を聞いて通代は
「ありがとう、ありがとう・・」
と言ったが危うく睨みつけそうになり、唇を噛んだ。
「賢治、顔洗いな・・」
と、タオルを差し出し洗面所を促す通代の手が私の背中に触れた・・・言い様のない怒りがこみ上げそうになるの堪え、一人洗面所に向かった。鏡に向かうと顔面を流れた血が固まり、ペンキのように剥がれかかったり、ジグゾーパズルのようにひび割れていた。閉めたドア越しに
「賢治、大丈夫かなぁ・・・」
と通代の声が聞こえた途端、私の目からドッと涙が溢れた。
「誰のせいで、誰がこんな目にあわせたと思っているんだ」
熱い熱い涙が頬を伝った。

うっすらと、私の中である決意が芽生え始めるのを感じた。
そして冷たい水で顔を何度も洗ううち、その決意が揺るぎ無いものに変わっていった。

92
 賢治:04/05/24 08:48 ID:hs4FMmlH
自宅に向かうタクシ-の中で、もう私の気持ちは固まっていた。後は実行するのみだ、という意志以外の全ての思慮が・・まるで私には及ばない次元の力で排除されていく様だった。

住まいである公営住宅の、少し手前でタクシ-を止め歩いた。
理由もなく、全身のあらゆる感覚が鋭敏になってくる。
住宅の前では通代の母親がタクシーを待って立っていた。
「終わったらしいなぁ、子供はよう寝てるでぇ」
「御迷惑をお掛けしました、ありがとうございます」
「あんたも疲れたやろ、早よ寝ぇな」
「じゃすいません、お先します・・」
そんな会話を不思議なくらい、そつなくこなし階段を登っているとやがて車が止まり、走り去って行くのが見えた。ペッ!・・思わずそれに向かって唾を吐き、私は子供達の待つ部屋に向かった。

94
 賢治:04/05/24 09:29 ID:hs4FMmlH
子供達はよく眠っていた。
今晩何があったのかなど関係のない寝顔にホッとした。
「俺も親なんだよなぁ・・」
と今更ながら実感した。
今までも確かに子供達は大切な存在ではあったが・子供の顔を見て癒やされるような父親ではなかった。日常の家事に追われ、本業にも向かう日々の中・・ いつも子供の持つ特有のエネルギ-に圧倒された。
時に子供を疎ましくさえ思う自分の中に、無償の愛があるべく親としての資質の欠如を感じていた。それだけに今、子供達の寝顔に癒やされる自分自身にもまた深く安堵したのだった。

95
 賢治:04/05/24 10:05 ID:hs4FMmlH
時刻は夜明けをむかえ磨りガラスの向こうが白々として来たが私はゆっくり風呂につかっていた。
「疲れた・・」
それ以上の気持ちも、それ以下の気持ちも湧いて来なかった。身体のあちこちが痛み様々なアザが出来ていたが
「結構やられたなぁ・・」
それ以外の感想もなかった。

風呂から出て子供達の布団にもぐりこむともう全てがどうでもよくなった、薄笑いさえこみ上げて来た。

非日常過ぎた今日を終え、果たして眠れるものかどうか結論から言えば・・
「寝よう寝よう!」
誰に言うでもなく声に出して目を閉じた私はいつ以来であっただろうと思う程深く眠ったのだ。

96
 賢治:04/05/24 13:20 ID:+JXUbxdQ
朝だ、その気配で飛び起きるといつもに増して手際よく朝食の用意をした。
「父ちゃん昨日どこいってたのぉ」
「いいのいいの気にすんな」
と、答えにならないあしらいをして朝食を摂らせその間に職場まで急いだ。昨日の昼に貼った貼り紙をはがし新たなものにした。
お客様各位
  本日の営業はお休みさせて頂ます
  誠に申し訳ありません
           店主
うまいぐあいに、誰にも声を掛けられずに済ませ家に戻り子供達を送り出した後・・・
「さて・・」
と、自分を促すように声を立ててから受話器を取った。

97
 賢治:04/05/24 13:47 ID:+JXUbxdQ
「もしもし、ちょっと叔父さんに代わってくれるかな」
案の定御機嫌で「お早う」と澄ました声で電話に出た通代に告げた。

「賢治です昨日のお話ですけどもやっぱりもう、通代と暮らす事は考えられません」
目をつぶって、自分の声に集中しながら一気に宣言した。
「お前どないなっとんのや!」
「申し訳ありませんが・・」
「どう落とし前つけるんや!昨日の今日やぞ!」
「これからそちらに伺います」
受話器を置き、さあここからだと思うと身が引き締まった・・
昨夜の決意は、今朝になっても微塵も緩んではないのだ。
普段の行動は殆どが自転車であり、通代のマンションも自転車での行動範囲であったが車のキーをとった。途中で誰かに会い今の自分の顔を見られたくなかったのだ。




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 賢治:04/05/24 14:32 ID:+JXUbxdQ
出掛け先は勿論通代のマンションであるが、その前に寄らねばならないところがあった。自分の仕事場のある商店街を通り抜けながら、もう少しでここを離れる結果になるのかもと、そんな思いが頭をかすめた。
日韓共催のワールドカップの会場ともなった静岡県は翌年の国体も控え、商店街を抜けた先の橋は、それに向けて取り壊され既に新しい橋が出来上がっていた。
その新橋の手前の金物屋の前に車を止めた。

「こんにちはー」
「はーい」
「すいません、包丁が欲しいんですけど」
「どんな物がいいでしょか・・」
「あんまり、いい包丁って買った事ないんですけど今回は少し頑張って、いい物欲しいんですけど」

99
 賢治:04/05/24 14:53 ID:+JXUbxdQ
はりこんで高値の包丁を選んだのは自分に対する敬意であった。
今日この包丁をどう使うかは、私の人生をも左右するのだ。

今朝貼り替えた紙が貼ってあるシャッターを、少し開けて仕事場に入った。真っ暗なところに、シャッターの下から入る商店街からの光だけが入ってくる。箱から出した包丁を右手にかかげ、確かめるように見回し次に左手の小指をまじまじと見つめた後、そっと唇にあてた。
「すまないなあ・・」
それだけは声に出してつぶやいた。
いよいよ、その小指を電話帳の上にのせると右手に持った包丁を思いっきり振りおろした。
ビーン!と指先がしびれた。

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 賢治:04/05/24 15:18 ID:+JXUbxdQ
転がった指先を見ると、ためらったが為に勢いが不十分であったのか、はたまた瞬間に目を閉じ包丁が斜めにあたったのか切り口は潔くなく、不細工だった。直ぐに拾い上げてその切り口を覗いた心配だったのはちゃんと骨まで切断出来ているかどうかだった。
爪は全てついてはいるものの、思ったより先端を切ってしまった。
骨は斜めに切断され、尾をひくように薄くのびていた・・
どうやら、包丁が骨の上で滑ったらしい。
「よかった、何とか形はついた」
とにかく、やろうと思った事はやったと切り落とした小指をハンカチに包んで胸ポケットにしまった。
その指はもう、冷たくなっていた・・。

「これでもダメな時は・・・」
そう思い包丁をタオルに包み上着の下に隠した。

101
 賢治:04/05/24 17:24 ID:JG7KUS7a
激痛に目が眩みながらも、その場を後にしようと歩き出す。一歩足を踏み出すごとに、痛みが衝撃となって脳へと伝わってくる。痛みと緊張感から、鼓動は早鐘を打っている。呼吸もままならない。
猛烈な吐き気を催し、思わずその場に蹲る。
「駄目だ、立っていられない・・・」
一瞬意識が遠くなるが、指の痛みが私を現実世界へといざなう。
「立て、そして歩くんだ」
自分を叱咤しつつ立ち上がろうとするが、多大な精神と労力を必要とした。(指の痛みがそうさせるのか・・・いや)自問するそばから否定する。 それだけが理由ではないことを、私はとっくに理解していた。

104
 賢治:04/05/25 08:26 ID:vS3CAMvu
「おはようございます」
玄関のドアを開けると奥の部屋からはあの人物が顔を出し
「賢治、お前どない・・・」
と言葉を出しかけた時、私の左手が目に入ったらしく一瞬黙った。
私は、この瞬間を逃してはとばかりに胸ポケットからハンカチの包みを取り出し、玄関の床に置きゆっくりと開いた。
「これで勘弁して下さい」
その人物が反応するまでには、間があった。

手仕事の私にとって左右の指は大切な商売道具である。
ましてや突発的な事故に依る欠損でもなく、私の意志で切り落として来たこの指を・・
「こんな物、何の価値があるんだ」
と踏みつけられた時の覚悟も出来ていた微塵の理性も保てずにきっと本能のままに振る舞う事になってしまうだろう。

105
 賢治:04/05/25 08:50 ID:vS3CAMvu
左手を止血せずにコンビニの袋に突っ込み、血がたまったまま、ぶら下げて登場したのも狙い通りであった。指の先は大袈裟に出血する部位でもあり、通代のマンションに到着したに時は小さめの袋ではあったが半分以上の量の血がたまっていたのだ。
「血の袋に気がついた瞬間が勝負だな」
また実際に今、そのタイミングで虚を突いたまでは思い通りだ。
運命を握る、その人物の反応を待った。その反応次第で一連の流れに終止符が打たれるのか若しくはあらたなステージに発展するのかが決定するのである。心境としてはただ、スタートの合図からこの人物を圧倒すべくあらたなステ-ジの開始だけに集中した。

その人物は・・・
開いたハンカチの上にある小指に目を落としながら
「そうか・・」
と一言だけ漏らした・・。

106 賢治:04/05/25 09:09 ID:vS3CAMvu
「こんな事しか思い付かなかったんで・・」
と、更に反応を促すとついにその人物は
「もうエエ・・解ったわぁ」

私は即座に引き下がる事は「してやったり」を悟られるような気がして、わざとゆっくり言葉を置くようにこたえた。
「ありがとございます・・ 色々と・・お手数を、お掛けしました・・」
黙るその人物の前に、また丁寧にハンカチを指にかぶせて押しすすめ・・
「それじゃあ今日のところはこれで失礼します・・」
一礼をして下がると、ゆっくりドアを閉めカチャリと確認すると・・・
「ほぉおー!ふぅうー・・」
            ・・・・と大きく息をついた。

107
 賢治:04/05/25 11:03 ID:vS3CAMvu
車を走らせながら次の目的地に向かった。
通代と暮らしていた男は数日前から実家にいるらしい。
静岡県内ではあるが、隣県との境にその実家はあり東西に長いこの県の中程に住んでいた私からは、少し遠出になった。
「あの人物の今の胸中はどうなんだろう・・」
100km程先の目的地に向かう車の中で私の起こした行動がこの先どう動くかを考えた。あの人物の胸次第で通代の意志を押さえる事は可能であろう。今時その世界の人達でもしなかろう私の振る舞いが、所詮
「ごっこ」で終わってしまうのか・・。
どこからでも因縁のつけようはあるだろうし、まだ油断は出来ないと自分に言い聞かした。それにしても前夜あの状況にありながら、包丁を持ったあの人物に対して・・
「手だけは勘弁して下さい!手は商売道具ですから」
と、前フリをして置いた私もふてぶてしいものがある。

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 賢治:04/05/25 11:20 ID:vS3CAMvu
運転をしていると、今まで経験をした事のない不思議な感覚が何度か襲ってきた。たとえて言えば非常に強い睡魔が来た時のあの、意識が 遠のく状況から眠さだけを除いたような感じである。眠さはないが、意識がすうっと浅くなりかけては我にかえるその繰り返しである。
「止血しようか・・」
そうも思ったが、このままで乗りこんだ時の迫力を想像するとそれも惜しかった。三十代も終わりに近くなった平成十三年の夏前・・
初めて経験する、出血による貧血であった。

道を知らず、尋ね尋ね車を走らせ目的地に着いたのは
もうすっかり昼をまわった午後であった。

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 賢治:04/05/25 12:27 ID:vS3CAMvu
通代の男の実家は東海道線の線路沿いにあり、古い軒並みの中に違和感なくその家はあった。
「こんばんはー!」
声を掛けると出てきたのはきっと、話に聞いていた実兄なのであろう、見知らぬ男性であった。
「森上といいますが、耕司さんいますかね・・」
穏やかな口調では言ったものの、私の左手に視線を向け
「ちょ、ちょっと待って下さいね・・」
と慌てて奥に戻るとその奥から
「森上さん?ウソだろぉー・・」
と言う声が聞こえて来た。
驚くのも無理はない、まさかこんな所に現れるとはという、思いがあるのだろう。しかし、痛い思いをした左手はハッキリと印象づけようと思いそのまま来たが、男に対して激高していた理由ではなかった。


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